イギリスと聞いて思い浮かべるのは、木のパネル装飾で飾られた趣のあるパブで飲む伝統的なエールやスタウト。けれど近年、この古き良きビール大国に、新たな風が吹いています。それがクラフトビール革命です。ここ数年で急速に進化を遂げたイギリスのクラフトビールシーンは、もはや「地ビール」の域を超え、国際的にも注目の存在に。地域ごとに異なるスタイル、素材、ブルワリーの哲学が交錯し、飲むたびに新しい発見があります。
この記事では、ロンドン、スコットランド、北アイルランド、イングランド各地の注目ブルワリーやおすすめビールを厳選し、まるで旅をするように味わえる「イギリスのクラフトビール文化」を紹介します。
ロンドン:クラフトビール最前線、都会派ブルワリーの宝庫
ロンドンは、長い歴史を持つパブ文化を誇りながらも、21世紀に入ってからクラフトビール革命の中心地へと変貌しました。国際都市ならではの多様な文化背景と、若い世代を中心とした味覚の変化が追い風となり、IPAやサワービール、セゾン、バレルエイジビールなど多彩なスタイルが次々と誕生しています。
この新たなムーブメントの象徴となっているのが、ロンドン南部のバーモンジー地区にある「Bermondsey Beer Mile(バーモンジー・ビアマイル)」。倉庫街をリノベーションして作られたこの一帯には、個性的なブルワリーやタップルームが軒を連ね、週末にはビール好きたちで賑わう一大観光地となっています。
またロンドンのブルワリーは、地元産ホップやモルトの使用、サステナブルな製造方法への取り組みなど、環境意識の高い姿勢も特徴。伝統と革新が共存するロンドンのクラフトビールシーンは、今や世界中のビールファンを惹きつけています。
Beavertown Brewery(ビーバータウン・ブリュワリー)
2011年、ノースロンドンのデュークス・ブリューイング・パブの小さな醸造所からスタートしたBeavertownは、創業者ローガン・プラント(ロバート・プラントの息子)の手によって、クラフトビール界に新風を吹き込みました。彼はアメリカ西海岸のホップ文化に影響を受け、ロンドンに新しいビール体験をもたらすことを目指しました。
ポップアート風の大胆なデザインと、トロピカルな香りが広がるアメリカンスタイルのビールが特徴。看板商品の「Gamma Ray」は、パッションフルーツやマンゴーのような香りと、キレのあるクリーンな苦味が絶妙に調和した一杯。初心者にも入りやすく、クラフトビール入門編としても人気です。
トッテナムに大型施設「Beaverworld」を建設し、大手ビール企業とのパートナーシップを結びながらも、独自性とクリエイティビティを維持。フェスやアートイベントとのコラボレーションも積極的に行い、クラフトビールを単なる飲み物から文化的ムーブメントへと昇華させています。
Beavertownのビールは、イギリス大手のスーパーマーケット(ウェイトローズやマークス&スペンサーなど)でも簡単に入手できます。イギリスを訪れたらぜひぜひ一度味わってみて下さい。

The Kernel Brewery(カーネル・ブリュワリー)
2010年、**エヴァン・オリアーダン(Evin O’Riordain)**によってバーモンジー地区に設立されたThe Kernelは、「素材そのものの味を生かす」ことを信条に、小規模ながらもロンドンのクラフトビール革命を牽引してきました。
オリアーダンは元々、ロンドンのチーズ専門店「Neal’s Yard Dairy」で働いていた経歴を持ち、食の品質に対する鋭い感覚をビール造りにも活かしています。
ミニマリズムを極めたラベルデザインと、ホップの個性をダイレクトに引き出したビール造り。特に「Pale Ale」シリーズは、仕込みごとにホップを変えるため、飲むたびに新しい発見があります。グレープフルーツやライムを思わせる爽快な香りと、繊細ながらも鮮やかな苦味が絶妙なバランスを保っています。
商業化の波に乗ることなく、あくまで職人気質を貫くスタイルを堅持。タップルームを訪れる人々と直接向き合い、本当にビールを愛する人たちとの静かな信頼関係を築いています。ビアマイルにおいても「品質で勝負する」存在感を放ち続けています
Camden Town Brewery(カムデン・タウン・ブリュワリー)
2010年、**ジャスパー・カッペイジ(Jasper Cuppaidge)**によって、ロンドン北部カムデンで創業されたCamden Town Breweryは、「イギリスでも世界水準のラガーを造りたい」という志から始まりました。彼は元々、母の誕生日に醸造した自家製ビールをきっかけにビール造りの魅力に目覚め、地元パブ「The Horseshoe」の地下で小規模な醸造を開始しました。
人気の高まりを受けて、Camden Town BreweryはKentish Town West駅の高架下に醸造施設を構え、本格的な生産体制へと拡大。レンガ造りのアーチの中に作られたこの醸造場は、都市型ブルワリーとして注目される存在となり、タップルームでは新鮮なビールをその場で楽しむことができます。
看板商品「Camden Hells Lager」は、ドイツのヘレススタイルをベースに、よりクリーンで軽快な飲み口を実現したラガー。クリスプな苦味と爽やかなホップ香が特徴で、ラガーの入門編としても親しみやすい味わいです。明るくポップなデザインとともに、ビール初心者からクラフト愛好家まで幅広い層に支持されています。
2015年には世界最大のビール企業AB InBevの傘下に入り、ロンドン北部エンフィールドに大規模な新ブルワリー(Camden Beer Hall)を開設。大手スーパーでも広く流通されるようになり、現在ではBeavertownやBrewDogと並び、クラフトビールを代表する国民的ブランドとして知られています。大量生産体制を築きながらも、クラフト精神と品質重視の姿勢を維持する、現代的なクラフトブルワリーの象徴です。

スコットランド:伝統と挑戦の共演、深みを増すクラフト文化
ウイスキーの本場として知られるスコットランドですが、近年ではクラフトビールの分野でも注目を集めています。伝統的な技術と革新的なアイデアが融合し、独自のビール文化が形成されています。特に、エディンバラやグラスゴーなどの都市部では、多様なスタイルのクラフトビールが楽しめます。
BrewDog(ブリュードッグ)
2007年にスコットランドで創業されたBrewDog(ブリュードッグ)は、英国クラフトビール革命の象徴とも言える存在です。設立当初から「大手ビール会社に対抗する」という強い信念のもと、伝統的な醸造技術に現代的な感覚を融合させたビールを次々と世に送り出してきました。創業者のジェームズ・ワットとマーティン・ディッキーは、地元の市場だけでなく、国際的なビール業界にも大きなインパクトを与えることを目指しました。
BrewDogの看板商品である「Punk IPA」は、その象徴的な成功例です。ホップの香りが際立ち、特にトロピカルフルーツを思わせるアロマと、しっかりとした苦味のバランスが絶妙で、クラフトビール初心者から上級者まで幅広く愛されています。このビールはBrewDogのブランドイメージを決定づけたと言っても過言ではなく、世界各地のバーやスーパーで見かけることができるようになりました。
また、BrewDogは革新的で時に過激とも言えるマーケティング戦略でも注目を集めてきました。自社株を一般消費者に販売する「Equity for Punks」や、ビール缶を宇宙に打ち上げるプロモーションなど、業界の常識を覆す取り組みは枚挙にいとまがありません。こうした挑戦的な姿勢と、製品に対する徹底した品質管理が融合し、BrewDogは単なるビールブランドを超えたカルチャーの発信地として、多くのファンを魅了し続けています
Innis & Gunn(イニス&ガン)
Innis & Gunn(イニス&ガン)は、スコットランド発のクラフトブルワリーで、ウイスキー樽で熟成させた独特のビールスタイルで高い評価を受けています。2003年に創業されたこのブルワリーは、もともとはウイスキーの風味をビールに移すという偶然の実験からスタートしましたが、その結果生まれた深みのある味わいが話題を呼び、今では樽熟成ビールの代名詞的存在となっています。伝統的なスコットランドの蒸留文化と、ビール醸造の革新が融合したそのスタイルは、国内外のクラフトビールファンに強く支持されています。
同社の代表作である「The Original」は、バーボン樽で熟成されることにより、ビールに深みと複雑な香りが与えられています。バニラやキャラメル、オークといったウッディな香りが豊かに広がり、スモーキーでまろやかな口当たりが特徴です。冷えた季節には特にその芳醇さが引き立ち、秋冬にぴったりの一杯として愛されています。一方で、アルコール度数は比較的高めで、じっくりと味わいたい“ゆったり飲み”に最適なビールとも言えるでしょう。
Innis & Gunnはまた、味の追求だけでなく、美しいボトルデザインやブランドイメージの洗練にも注力しており、ギフトとしても人気があります。さらに、限定商品やコラボレーション企画にも積極的で、シングルモルトの樽を使った特別版や、チョコレートやコーヒーとのペアリングを意識したビールなど、意欲的な挑戦を続けています。こうした姿勢が、クラフトビールの枠を超えた“体験としてのビール”を提供するブランドとしての評価を高めているのです。

北アイルランド:地元密着の小規模ブルワリーが光る
北アイルランドでは、地域に根差した小規模なブルワリーが多く存在し、地元の素材や文化を活かしたビール造りが行われています。ベルファストやリスバーンなどの都市では、個性的なクラフトビールを提供するブルワリーが増えており、観光客にも人気のスポットとなっています。
Boundary Brewing(バウンダリー・ブリューイング)
ベルファストを拠点とするBoundary Brewingは、2014年に設立された比較的新しいクラフトブルワリーですが、その背景にはユニークな特徴があります。それは、メンバーシップ制を導入した協同組合モデルによる運営です。地域のクラフトビール愛好家が出資し、運営に参加するという形で「コミュニティ主導」の精神を体現しており、地元の人々とのつながりがその活動の原点となっています。
Boundary Brewingの魅力は、ただビールを造るだけでなく、新しいスタイルに果敢に挑戦する革新性にあります。IPAからベルジャンスタイル、サワーエール、さらにはウイスキー樽で熟成されたバレルエイジドまで、多彩で実験的なラインアップを展開。特にコーヒースタウトやチョコレートを使った濃厚な黒ビールは、寒い季節にぴったりの贅沢な一杯として高い評価を受けています。
その斬新なビールづくりは、地元のファンだけでなく、ベルファストを訪れる観光客の間でも評判に。タップルームでは限定ビールやコラボレーション作品も楽しめるため、クラフトビールツーリズムの一環としても人気が高まっています。地域に根ざしながらも、グローバルな感性を持つBoundary Brewingは、アイルランド北部のビール文化を牽引する存在です。
Boundary Brewing(ヒルデン・ブリュワリー)
Hilden Breweryは、北アイルランド・リズバーンに位置し、1981年創業という長い歴史を持つクラフトブルワリーです。アイルランドにおけるクラフトビールムーブメントの先駆けとも言える存在で、今日に至るまで家族経営を守りながら、伝統と革新を融合したビールづくりを続けています。醸造所は歴史あるジョージア建築の中にあり、その風情あるロケーションも訪れる人々を魅了しています。
同ブルワリーのこだわりは、地元産の素材と伝統的な醸造手法の活用にあります。麦芽やホップの選定から仕込み工程まで、手作業に近い形で丁寧に造られるビールは、クラフトならではの奥深さを感じさせてくれます。代表作の「Belfast Blonde」は、淡い色合いと柑橘系の爽やかな香りが特徴で、ビール初心者から通まで幅広く愛される一杯です。
さらにHilden Breweryは、地元イベントや音楽フェスとの連携にも積極的で、地域コミュニティとのつながりを大切にしています。夏には自社敷地内でビアフェスティバルを開催し、ライブミュージックと共に多彩なビールを提供。こうした活動を通じて、ビール文化を通じた地域活性化に貢献しているのも魅力のひとつです。
イングランド北部:マンチェスター発、エネルギッシュな味わい
イングランド北部は、産業革命の中心地として知られ、マンチェスターやリーズなどの都市が活気に満ちています。この地域では、労働者階級の文化と新しいクリエイティブなエネルギーが融合し、独自のクラフトビールシーンが発展しています。伝統的なビターエールから最先端のIPAまで、多様なスタイルのビールが楽しめます。
Cloudwater Brew Co.(クラウドウォーター・ブリュー・カンパニー)
マンチェスターに拠点を置くCloudwater Brew Co.は、2015年に創業された新進気鋭のクラフトブルワリーで、瞬く間にイギリス国内外の注目を集める存在となりました。設立当初から「四季の移ろいと共に味わいを変えるビール」をコンセプトに掲げ、季節ごとの原料の魅力を活かした醸造を展開。マンチェスターという都市の多様性とダイナミズムを映し出すかのように、クラウドウォーターのビールも常に進化し続けています。
中でも代表作の「DDH Pale Ale(ダブルドライホップ・ペールエール)」シリーズは、濃厚なホップの香りとジューシーな飲み口で多くのファンを獲得。IPA文化が隆盛を極める中でも、Cloudwaterは一貫してその品質と味わいの探求を重視し、ホップの産地や品種を厳選した繊細なビール造りを行っています。限定醸造やコラボレーションにも積極的で、まさに現代的クラフトビールの象徴とも言える存在です。
さらに2021年には、イギリス大手スーパーマーケットTescoとの提携を発表し、全国規模でクラフトビールの販売を開始。Cloudwaterの高品質なビールがより多くの人々に手に取られるようになり、クラフトビール市場の裾野を広げる重要な一歩となりました。この提携は、単なるビジネス展開にとどまらず、「高品質なクラフトビールを日常の選択肢にする」というビジョンの実現を後押しする取り組みとして、多くの業界関係者からも高く評価されています。
Northern Monk(ノーザン・モンク)
マンチェスターから少し東、ウェスト・ヨークシャー州リーズに拠点を構えるNorthern Monkは、英国のクラフトビール業界でも特に高い評価を受けるブルワリーの一つです。2013年の創業以来、伝統と革新の融合をテーマに、多彩なスタイルのビールを展開。修道士(Monk)の名前を冠する通り、クラシカルなイギリスのエールをルーツに持ちつつ、現代的なIPAやサワー、インペリアルスタウトなど、革新的な醸造にも力を入れています。
特に注目されているのは、「Patrons Project」シリーズで、アーティストやシェフ、音楽家など異業種とのコラボレーションを通じて、新たな味とストーリーを表現。地域コミュニティとの結びつきを重視し、ビールを文化的な表現手段として位置付けている点が、Northern Monkならではの魅力です。Cloudwaterと同様に、英国クラフトビールの多様性と可能性を体現する存在として要注目です。

イングランド中部:伝統を今に受け継ぐクラフトの聖地
イングランド中部、特にバーミンガムやバートン・アポン・トレントは、英国のビール産業の中心地として知られています。この地域では、硬水を活かしたペールエールの醸造が盛んで、伝統的な技術と現代的な感性が融合したクラフトビールが楽しめます。
Attic Brew Co.(アティック・ブリュー・カンパニー):地域に根ざした温もりある醸造所
バーミンガム南部セリー・オーク地区に拠点を構えるAttic Brew Co.は、2018年に設立された新鋭のクラフトブルワリーで、地元に密着した運営スタイルが特徴です。創業者たちは「自分たちの住む場所にこそ、美味しいビールを届けたい」との理念を掲げ、小規模ながらも質の高いビールづくりを続けています。閑静な住宅街の一角にある醸造所には、温かみのあるタップルームが併設されており、地元の人々の交流の場にもなっています。
代表作「Intuition」は、グレープフルーツやパッションフルーツの香りが広がるセッションIPAで、軽やかな口当たりながらもしっかりとしたホップの風味を楽しめます。その他にも季節限定のサワーや、濃厚なスタウトなど、多様なラインナップを展開しており、訪れるたびに新たな味との出会いが待っています。缶デザインもシンプルかつスタイリッシュで、若い層にも人気があります。
Attic Brew Co.はまた、地域文化とのつながりを大切にしており、地元アーティストとのコラボイベントや、フードトラックとの提携など、コミュニティを巻き込んだ活動を積極的に行っています。週末にはファーマーズマーケットのような雰囲気で賑わい、ビールだけでなく人々の交流が生まれる場所として高く評価されています。
GlassHouse Beer Co.(グラスハウス・ビア・カンパニー):ホップを操る革新者
GlassHouse Beer Co.はバーミンガムのモーズリー地区にある、ホップ主導のビールで高い評価を受けているマイクロブルワリーです。2016年に家庭用キットからスタートしたこの醸造所は、次第にその品質の高さが話題となり、現在では英国のクラフトビールファンの間で広く知られる存在となりました。特にアメリカンホップを多用したジューシーなIPAやヘイジーなペールエールが人気です。
「Acres(エイカーズ)」は、GlassHouse Beer Co.が手がける代表的なヘイジー・ペールエールで、その滑らかな口当たりとトロピカルなホップのアロマが特徴です。アルコール度数は4.5%と控えめながら、シトラスやパッションフルーツのようなフルーティな風味が豊かに広がり、軽やかながらも満足感のある一杯に仕上がっています。飲みやすさと味わいのバランスが絶妙で、同社の「ホップを操る革新者」としての評判を裏付けるビールのひとつです。

イングランド南西部:自然派クラフトビールの宝庫
イングランド南西部は、サマセットやデヴォンなどの豊かな自然と農業文化に根差した地域です。このエリアでは、地元の素材を活かしたナチュラルなクラフトビールが多く醸造されており、アウトドアや食との相性も抜群です。
Verdant Brewing Co.(ヴァーダント・ブリューイング):コーンウォール発、ホップの芸術
2014年にコーンウォール州ファルマスで設立されたVerdant Brewing Co.は、南西部を代表する新世代のクラフトビールブルワリーとして急速に注目を集めています。創業者たちは、アメリカ西海岸のジューシーでホッピーなIPAに感銘を受け、「飲みたいビールを自分たちでつくる」ことを目標にスタートしました。自社醸造所の設立からわずか数年で、その革新的なビールは英国全土のクラフトビールファンに知られるようになりました。
Verdantの代表作「Unlike Stars」や「Lightbulb」は、いずれもホップの香りと苦味のバランスを追求したIPAやペールエールで、トロピカルフルーツ、柑橘、松脂のようなアロマが印象的です。地元の軟水を活かした醸造技術により、口当たりは滑らかで、重たさを感じさせない仕上がりです。野外フェスやアートイベントといった若者文化とも結びつき、クラフトビールを通じて地域に新しい創造的エネルギーをもたらしています。
また、Verdantはサステナビリティや地域連携にも力を入れており、ファルマスの港町文化やアーティストたちとのコラボレーションも活発です。併設のタップルームは観光客にも人気で、港の風景を眺めながら鮮度抜群のビールを楽しむことができます。コーンウォールの自然と創造性が融合した、まさに「今」を映すクラフトブルワリーです。
St Ives Brewery(セント・アイヴス・ブリュワリー):アートと海に育まれたクラフトビール
St Ives Breweryは、コーンウォール州の海辺の町セント・アイヴスに拠点を構えるクラフトビールブルワリーで、2010年に設立されました。美しい海岸線と芸術の町として知られるこの地の文化的・自然的環境が、ブルワリーの個性にも色濃く反映されています。創業当初は小規模な設備でのスタートでしたが、地元パブや観光客の支持を受けて急成長し、現在ではタウンセンターと郊外に醸造設備とタップルームを構えるまでになりました。
St Ives Breweryのビールは、伝統的なスタイルを尊重しつつも現代的なホップ表現に果敢に挑戦しており、とりわけ人気を集めているのが「Slipway Session NE IPA」や「Meor IPA」です。「Slipway」はアルコール度数5.0%で、ニューイングランドスタイル特有の濁りとジューシーな口当たりを持ち、柑橘系とトロピカルフルーツのアロマが豊かに広がります。軽やかさと飲みごたえを兼ね備えた味わいで、多くのビールファンを魅了しています。「Meor IPA」はよりしっかりとした苦味とコクを持ち、バランスの取れたホップの風味が特徴。イギリス全土のTESCOでも取り扱われるほどの人気を誇り、St Ives Breweryの名を全国に広めた一本です。
また、St Ives Breweryはアートとデザインへのこだわりも強く、ラベルや店舗空間には地元アーティストとのコラボレーションが積極的に取り入れられています。丘の上に建つセント・アイヴス・タップルームからは、海と街を一望でき、風光明媚な景色とともにフレッシュなビールを味わうことができます。自然、芸術、そして人の手によるクラフトの融合が、St Ives Breweryの最大の魅力といえるでしょう。

イングランド南東部:ホップの産地が生む洗練された一杯
イングランド南東部、特にサセックス州は、イギリス最大のホップ産地であり、クラフトビールの革新が息づく地域です。このエリアでは、伝統的な醸造技術と現代的な感性が融合し、洗練されたビールが数多く生まれています。特に、バーニング・スカイ・ブリュワリー(Burning Sky Brewery)は、サセックスの自然と伝統を活かしたクラフトビールで注目を集めています。
バーニング・スカイ・ブリュワリーは、2013年にイングランド南部のサセックス地方で誕生したクラフトブルワリーです。創業者マーク・トレンソーは、かつて名門ブルワリー「Dark Star」で醸造責任者を務めており、伝統への深い理解と革新への情熱を併せ持った人物です。自然豊かな丘陵地帯にある元農場の建物を改装してブルワリーとし、周囲の環境を活かしながら、土地の個性を反映したビールをつくり続けています。
このブルワリーを象徴するビールのひとつが、「Saison Provision(セゾン・プロヴィジョン)」です。フランス語で“季節”を意味するセゾンは、もともと農閑期に仕込まれたベルギー発祥のビールスタイル。このビールはセゾン酵母で一次発酵させた後、ラクトバチルス(乳酸菌)とブレタノマイセス(野生酵母)を加え、オーク樽で数ヶ月にわたって熟成されます。柑橘系の爽やかな香りに、心地よい酸味とドライな余韻が加わり、軽快でありながら奥行きのある味わいが特徴です。
バーニング・スカイのビールは、英国の伝統的なエールやベルギースタイルの醸造技術、そしてアメリカのクラフトビールの自由な発想を巧みに融合させたもの。サセックスの自然と気候を感じさせるナチュラルなテロワール(風土)の表現にもこだわっており、都会的な洗練と農村的な素朴さが絶妙なバランスで共存しています。そのため、ビール愛好家のみならず、ワインやナチュラルフードに関心のある層からも支持を集めています。


ヒロ
飲み物と食べ物については好奇心旺盛、猫を愛するイギリス在住のアラフィフ男性です。
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